「異聞・戦国録-外伝-」EPISODE・弐-4 半Be先生作

 話を条星とヨハンの二人に戻す。
ヨハンを自宅で養生させていた条星は、その後早速、上総介おめぐへ書状をしたため、南蛮人が自宅に居ること、体力が回復し次第、城へ連れて行くことなどを記した。やがて、ヨハンは日本語にも馴れ、自分が日本へ辿り着いたことなどを話すようになった。大まかな内容はこうである。
――― 自分はポルトガルの然る家の生まれで、代々軍人であること。
ポルトガルの商船に護衛の戦闘員として乗ってきたこと。
もうすぐ日本に着くという所で嵐に巻き込まれ、船が沈没したこと。
自分はその船から脱出し、何日か漂流したこと。
などである。
十日ばかり経って、条星はヨハンをつれて、おめぐの所へ赴いた。道中や蘇我の館に着いても、ヨハンを見る目は厳しいもので、見る者の顔がこわばっていた。しかし、謁見が始まると、驚いたのはヨハンの方であった。
条星が主としているのは女性だったからである。ヨハンが聞いていた日本の君主は皆男だと聞いていたからである。
やがて話が進むと、ヨハンは条星に話したことなどを含めて、おめぐからの質問にも色々と答え、和やかな時間が過ぎていった。そして、日も傾きかけた頃、おめぐがふとヨハンにいった。
「ヨハンとやら、お主は先ほど、嵐に巻き込まれたといったな?」
その問いに、ヨハンはビクリと身体が動いた。
「は、、、はい。」
「偽りはないな?」
その問い詰めに条星が割って入る。
「お館様。何を申されているのです?この者は…。」
「条星!」
「はっ!」
「しばらく黙っておれ。」
「はい」
おめぐの命令に条星は黙ってしまった。おめぐは続ける。
「ヨハン、お主の言った、嵐の話、誠かと聞いている。」
「……。」
「嘘であろう?この数ヶ月、この辺りでの海の荒れの報告は受けてはおらぬ。日本人をなめておるのか?」
「!!!!!」
ヨハンは驚いた様子でおめぐを見上げる。
「そのようなことは…。」
「では、真実を述べてみよ。」
二人のやりとりを条星は見守っている。ヨハンは畏まって話し始める。
「はい…。わたしがぶもんのかけいにうまれたのはしんじつです。ただ、、、ふねにのったのはせいしきなてつづきではなく、しのびこんでのこと。かってにのりこみました。」
「なに!」
愕いたのは条星である。おめぐは黙って聞いている。
「でも、そんなことはすぐにみつかります。わたしはふねでのしごとをしながらみんなといっしょにきました。
ところが、もうにほんにつきそうなとき、いっしょにのっていたせんきょうしがたくされていたにほんへのしんしょがなくなったのです。」
「お主がぬすんだのか?」
すかさず条星が問う。
「いいえ、わたしはしらない。けれども、うたがいはわたしにかけられました。そのご、わたしはなんきんされました。そして、なんにちかして、わたしのにもつからそのしょじょうがでてきたのです。わたしはころされるとかくしんしました。そして、もうすぐにほんにじょうりくときいて、なんとかふねからうみへととびおり、にげたのです。」
「そ…そんな。。。。なぜ、真実を黙っておった!ヨハン殿!」
条星が叫ぶ。その条星をみてヨハンは言う。
「もしかすると、はんざいしゃとしててはいされているかもしれないゆえ。。。」
この返答には条星も黙り込んでしまった。そういう状況下に置かれてしまったら自分もそうするであろうと思ったからである。おめぐが言う。
「大体の事は分かった。だがヨハン、お主のことなど少なくともこの上総では聞いたことがない。心配はない。」
「ははっ。」
「ヨハン、お主は今更祖国へ帰っても罪人であろう?だからというわけではないが、我が上総介家の家臣とならぬか?」
その言葉に重臣である兜太郎丸、大谷宝、源太郎が反発する。
「お館様!何を言っておるのです??他国の者など…。」
「そうじゃ、わが国のしきたりも知らぬ者ですぞ!」
「しかも、何を考えているかが分かりません!!」
場が一気に緊張を高めた、その時である。
「ならば、この者も一緒に家臣として取り立ててくださいませ!!」
その声に一同が反応し、声の主のほうを向く、そこには木枯紋次郎ともう一人の若武者が立っていた。
「お館様。木枯紋次郎、武蔵国にてこれなる宮本雅殿を探してまいりましてござる!」
紋次郎がそう言うと、二人は座り深々と頭を下げた。
「武蔵の宮本雅でございます。上総介家の末席に加えていただけたら光栄の至り。」
おめぐが答える。
「うむ。紋次郎からは時折、話しは聞いていた。何でもこの紋次郎に負けず劣らずの剛の持ち主とか。」
「紋次郎殿とは旧知の仲。此度は紋次郎殿に上総介様のお話を聞き、是非とも家臣にして頂きたく思い。。。」
「お主は草加衆の主であったな。心強く思う。武蔵攻略の折には、力を発揮してもらうぞ。」
「は!」
「よし!では今日から、この宮本雅とヨハン・セバスチャンは我が家臣だ。太郎丸、宝、太郎、良いな。」
その聞き慣れない名を聞いて、紋次郎は条星に尋ねる。
「条星殿!そこにいる黄金色の毛の者が南蛮人か?」
「うむ。ポルトガルのヨハン・セバスチャン殿じゃ。」 「おおお!腕っ節はどうなのじゃ?」
「分からぬが、代々武門の家柄であるといっておるぞ。だが、未だ療養中の身じゃ。」
「そうか、では元気になったらお手合わせ願おう!」
そう言うと紋次郎はヨハンのもとへ行き握手を求めた。ヨハンは笑顔で力強くそれに応じた。
「さて、それでは、今日は何時に無く目出度い日じゃ、家臣が二人も増えた。宴でも催そうかな。」
おめぐがそう言うと皆は一斉に
「はっ!」
と答え、開宴の時間までしばしの解散となった。広間に残ったおめぐはいつの間にかそばに控えていた黒井お猿に話した。
「お猿、雅殿はともかく、あのヨハンという南蛮人、上手くやっていけるかな。」
「恐らくは。。。条星殿の話によると、大まかわが国のことを知っておるようです。しばらくは様子見ということで良いではありませぬか?」
「うむ…。西洋の戦い方なども教えてもらえれば、かなり心強い。」
「それより、お館様。下総の荒城田家のことですが。。。」
「! 様子はどうじゃ?」
「はい、現当主の秀盛殿は恐らくもちますまい。あたりの国人が荒城田家を狙っておる様子。」
「そうか。しかし、今の上総介家には助けるほどの余力はない。」
「哲坊殿が頼みですな。。。」
「そうじゃ……。」
そう言いながら、おめぐは脇に置いてあった書物を読み始めた。
『さて、、、どうしたものか…。』
ふと、この言葉が自分の中で癖になっているのに気付いたおめぐであった。



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