「森蘭丸」第二話.早すぎる恋文 蘭香先生作

父.可成が死んでから.屋敷の中はひっそりと静まり返っている。
信長にとって.とくに可成はすぐれた重臣でもなく.必要のない者でもなかった--
しかし.家族は絶望的な打撃を受けたのである。
母も.最近急にふさぎこむようになった....

ある日蘭丸は.母と久しぶりに双六をしようと寝殿へと向かう。
双六版を持って歩きながら.蘭丸は「母上ー。母上ーーー。双六をしませぬかー?」
と呼びかけながら.シャッと戸を開けた。母は.机に向かって文を書いている。
「母上......?」少し悪い顔色で蘭丸を見ると.無理をして笑った。
「あら.蘭丸。どうしたの?」蘭丸はようやくほっとして.双六版を勧めてみる。
「母上....顔色がわるうござりまする。気晴らしに.双六でもやりましょう。」
そう言って.肩を叩く蘭丸に.母はまた気力の抜けた顔を向けた。
「しかし....可成様がお亡くなりになってから.どうも何もする気がせぬ......
どうしてでしょうね。ずっと側に居た人が急にいなくなるなんて......こんなに悲しいことなのかしら...?」
「母上..........拙者は.....」そう言って涙する母。
蘭丸は.まだ幼い。
あの時可成が言った言葉の意味も.わからないほどなのだ。
でも.あの時の弓矢稽古の時のように.兄とともに森家を背負って立つ不安や責任感を感じている。


だから。


父が居ないからこそ。


幼いからこそ。


今屋敷中が.悲しみに暮れているからこそ。

「蘭のように育ち.戦国乱世の世を駆け抜けよ」
そう言った父の言葉を信じて生きて行くしかない。
蘭丸は.そう思う。

---そして.一年ほどが経った。母は前と比べて持ち前の明るさを取り戻しつつある。
それと同時に.森家の三男坊.蘭丸もほほえましく育っていった。
こんな時.ひとつの小さな事件が森家....いや。
蘭丸の心の中を騒がせることになった。

「長可様ぁ.長可様ぁ~!」
夏の朝.ひとりの女中が叫んだ。蘭丸は.ひとり庭を散歩している。
「なんだなんだ?どうしたというのだ?」「あ.あのあのあのっ!こ.これを....」
女中が二.三枚ほどの紙を差し出した。「これは......まさか.敵の矢文か!?」
長可は驚いて女中の顔を見る。....でも。
少し.様子がおかしい....妖しげな手紙だというのに.何かを喜ぶように女中は微笑んでいた。
「どうしたのだ?これはなんなのだ。」と.たずねる長可に.女中は顔を赤らめた。
「うふふ....どうぞ.ご自分の目で....」
じれったくなって.その紙を開く。
「........................!?」

蘭丸は.いつのまにか木の陰で眠ってしまっている。
女子のようなかわいらしい寝顔.....たとえ男が眺めたとしても.見とれてしまうほどだろう。
それはまるで.あの蘭のようである。

ポーン!

低めのへいを乗り越えて.小さな半紙で折ったような紙飛行機が飛んできた。
「!!!?」顔にもろにくらった蘭丸は.驚いて立ち上がった。
警戒して.へいを見上げる。「な.なんだ.........兄上にござりますか?」
ほっとして.おもしろ半分にへいから下を見てみた。
すると-
蘭丸と同い年ほどの少女が.笑いながら見上げている。
「蘭丸さま!」少女は叫んだ。その後からも何人かの娘が歩いてくる。
「??????????????????????????????????」
なんだろう.なにごとだろうと思い.蘭丸は下におりていった。
娘達はいっせいに.いきつくまもなくこう言った。
『蘭丸様.私のお婿さんになってくださいまし!』
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
蘭丸は.驚きのあまり腰をぬかしてしまう。
--御察しのとおり......これはいわゆる.愛の告白?(笑)
いいや.ふぁんくらぶと言った方がいいだろう。
とりあえず.蘭丸は困った。なにせ.蘭丸は娘と話したことがない。
話したと言ったら.30すぎた母親か.数少ない女中(注.30くらいの)か.乳母(注.60)としかない。(もちろん台所の方へいけば若い娘はたくさんいるが.行ったことがない。)
「あ.あの.困っ..困っ......その.....そ.そちらの事もよく存じぬし....」
「あら...さっき.手紙を渡したじゃありませぬか。お受け取りになられましたのでは?」

「は?」
「は?」
「.......蘭丸様.あなたを縁側でいつも見ております....
それ以来.蘭丸様のことをお慕い申し上げて参りました........
ぜひともあなたの妻になりとうぞんじまする.........
............?????????????娘一同」
女中がくすくす笑った。長可はなんだか複雑そうな顔をしている。
「蘭丸様が.幼き六つで娘から恋文をいただくなんて!
たくましゅうお育ちになったものですわね.長可様。」長可は.長い間固まっていたが.バリバリ恋文をやぶりだした。
「あ゛ーーっ蘭丸めええー!こしゃくじゃこしゃくじゃ!拙者があれくらいの時など.まだはなをたらしてたころなのじゃぞー!」
「長可様ったら.おやきもち?」
「うっるさーーーーーーーーーいっっっ!!!」

----蘭丸はその晩.熱を出した。
乳母によると.興奮のしすぎによる発熱らしい。 
第二話.完



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