新説 関ヶ原、西軍圧勝ス。 司馬ごくたろう先生作

(後 編)

石田三成の内応は東軍全軍にたちまち伝えられた。
もちろん西軍にも漏れる。
ただでさえ浮き足だったところへ実質的な全軍指揮官の裏切りである。
もう西軍の各陣営は陣としての形を為していなかった。
ただ逃げる。 それあるのみである。
「見よ。 西軍は壊滅じゃ。 石田どの。 今回の戦の功名第一は石田どのぞ。」
家康の高笑いが関ヶ原にこだました。 

本多忠勝 ぷつん。
なにかが切れる音がした。
本多忠勝、一生の不覚。
されば、さっきの男、やはり三成だったのか。
こんなことが、あっていいのか。
こんなことが、ゆるされるのか。
我は家康随一の武将ぞ。
百戦錬磨の忠勝ぞ。
聞けば功名の一は三成だと!
この俺を差し置いて、こんな下策で功名だと!
ゆるさん。
三成、決して許すまじ。
俺がきゃつの首をはねてやる。
お館はきゃつにたぶらかされておるのだ。
かまわん。
三成の首をはねる。 俺がはねる。
邪魔するやつは切る。
身方であろうと、徳川一門衆であろうと。
三成の首の前に立ちはだかる者は、たとえ家康であろうと!
本多忠勝は馬を東へ向けた。

なんだと!
福島正則は激昂した。
石田三成が東軍に加わっただと!
じゃあ、儂はなんだ。 なんで、ここにいる。
儂が三成の身方じゃと。 ああ、胸くそ悪い。
儂は三成が大っ嫌いなんじゃ。
やめじゃ、やめじゃ。
誰が三成なんかの身方をするか!ってんだ。
ぐっと彼方を睨むと声をあげた。
「わが狙うは三成の首ただひとつ!
三成の首は西にあらず。 三成の首は東にあり。
皆の者、東じゃ。 儂らの敵は東にありじゃ。」
福島正則は兵6000と共に東へ突き進んだ。

黒田長政。
儂も三成は嫌いじゃ。

細川忠興。
儂だって。

加藤嘉明。
当たり前じゃ。 

井伊直政の陣にはまだ石田三成の一件は伝わってはいなかった。
だが本多忠勝が目をぎらつかせ東へ向かうのを不審に思い問いかけた。
「平八郎、何処へ行く。」
本多忠勝は一言、「三成の首じゃ。」
井伊直政、愕然。
石田三成の謀略で家康本陣が奇襲にあったのか!
勘違いであるが、見れば黒田も福島も皆東へ向かう。
すわ!一大事。
井伊直政と3600の兵もただ、がむしゃらに東へ急いだ。 

本多、井伊、福島、黒田、細川、加藤。
それに訳もわからず筒井定次と田中吉政、寺沢広高が加わった。
藤堂高虎もつられた。
そのあとから京極高知もついてくる。
3万5000がにわかに西軍に加わった。

家康軍は壊滅した。
怒濤の進撃に為す術がなかった。
もう、三成も家康も あったもんじゃない。
小早川秀秋が大谷吉継軍を敗退させたとき、あたりに東軍はいなかった。
小早川のみが残されていた。
どさくさの混乱の中、家康は三成に間違えられ刺し殺されていた。
石田三成は大木の陰に隠れていたところを西軍の本多忠勝に発見されその場で討ち取られた。 
かくして、天下分け目の戦いとよばれた関ヶ原の合戦は西軍の圧倒的勝利で幕を閉じた。

                          完 



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