「戦国の時代へ・・・」第4話 湘南B作先生作

車が霧に迷い崖から転落するという、きっかけにより現代から永録元年(1558年)織田信長が今川義元を破る、桶狭間の戦いの2年前の世界へタイプスリップしてしまった中嶋太郎達一行(本間利和、沖芳子、望月美貴)、藤吉郎(のちの豊臣秀吉)と一時的に一緒に旅をすることになった明智光秀は尾張の国に入っていた。

「ここで、お別れじゃな。」と光秀は言った。
京へ向かう道、藤吉郎の実家のある尾張中村へ向かう道の分岐点だった。
「えっ~、せっかくみっちゃんと仲良く慣れたのに。もう、お別れ。」
「本間、みっちゃんとはこれからも会う機会があるよ。」と私が答えた。
「ほら、行くぞ。」藤吉郎は尾張中村への道を歩き始めた。
「チュウリン、みっちゃんとさるって仲悪いの?」
本間が小声で聞いた。
「ライバルみたいなものだからな。」と私は答えた。
「それでは、今までどうもありがとうございました。」と私達は挨拶し、もうすでに歩き出している藤吉郎の後を小走りに私達は追った。
光秀は、私達が見えなくなるで、そのまま見送っていたが、見えなくなると京に向けて歩き出した。
それから、何時間か歩くと、貧しそうな農村に差し掛かった。
「ここが、わしの生まれた尾張の国中村じゃ。」
藤吉郎が言った。
「兄者!! 兄者じゃないか」
私達に声を掛けてくるものがいた。
「おおっ、小一郎か。久しぶりだな。」
藤吉郎は答え、藤吉郎は小一郎と家のほうへ歩いて行った。

「チュウリン、さるに弟なんかいたの?」
本間は私に聞いた。
「本間は、豊臣秀長を知らないのか。」と変わりに沖が答えた。
「秀吉や光秀に比べたら、秀長さんは無名だから仕方ないわ。」と望月がフォローを入れた。
「けっこう、秀吉の片腕として凄いことした人なんだけどね。」
私が言うと、
「いいものがあるわ。これ中嶋君にも見せようと現代の大阪から持ってきていたんだわ。」と言い、沖は自分の荷物の中から一冊のちょっと分厚い本を取り出した。
「こんな物を持っていたから、荷物が重かったんや。」と沖が言った。
沖が取り出した本は『戦国時代百科』だった。
その本には戦国武将の紹介などが挿し絵(肖像画)付きで載っていた。
「ほら、ここを読んでみい。」と沖が豊臣秀長の載っているページを開いてみせた。
本間は一通り読んだ後、
「偉い人なんだね。」と一言言い、
「芳子お姉様、別のページも見せて。」とパラパラと本をめくり始めた。
「みっちゃん、全然似ていない。」
「実際のみっちゃんの方が全然かっこいい。」
本間は肖像画の光秀や秀吉、秀長を見て、望月と騒いでいた。
「本間、ちょっと確認したいことがあるから見せて。」と沖が本間から本を取り上げて、あるページを確認し、
「美貴ちゃん、あの駿府で助けてくれた人、この人やろ。」
「そういえば、そんなかんじよね。」
「パパやろ、パパ。
パパに助けてもらえるなんて、この時代に来て良かったわ。
どうりで、どこかで見たような気がしたんや」
沖は有頂天だった。
私や本間もその人物の肖像画を確認し、似ているように感じた。
「でも、みっちゃんなんて全然似てなかったし、この人かどうかなんて分からないんじゃないの。」と本間がめずらしく冷めた感じで言った。
「おぬし達、さっきからなにそこで大騒ぎしているんじゃ。
なんか面白いことでもあったか。」と藤吉郎が戻って来て言った。
「なんでも、ないわ。」と望月が答えた。
「ちょっと、貸してみろ。」
藤吉郎は、その時本間が持っていた本を取ろうとしたが、
「それ私のだから、さるは触れるな。」と沖が厳しく言い、本間から本を取り上げた。
「さるにもちょっとくらい見せてあげてもいいじゃん。」と本間は言った。
「藤吉郎さんが見たら、歴史が変わってしまうわ。」と望月が言い、本間を説得した。
「まあ、私達がいるだけでも十分歴史は変わっていると思うけど。」と沖は言った。
藤吉郎は、とりあえず本を見るのをあきらめたようだった。
しかし、本をみたいという好奇心は収まったようではなかった。

「藤吉郎さん、お母様にはご挨拶できたのですか?」と望月が聞いた。
「ちょっと、事情があって今家に入れないんじゃ。」と藤吉郎が答えた。
「事情って、どうせお父さんが家にいるとかそういう事情なんでしょう。」と沖が言った。
「そんなところじゃ。
おぬしらは感が鋭いな。」と藤吉郎は言った。
「だから、感じゃないで、未来から来たって何回も言っているのに分からないんやな。」
沖はあきらめた口調で言った。
「兄者、あそこの空き家使えるようにしておいたから、今夜はみんなであの家に泊まってくだされ。」と小一郎がやって来て言った。
「小一郎さんありがとうございます。」
沖が小一郎にお礼を言うと、
「わしに対してはさるで、小一郎にたいしては小一郎さんか」
藤吉郎はひがんでいた。

その時に、賑やかな子供の声がした。
「チュウリン、なにかな行ってみよう。」
今すぐにでも歩き出しそうな感じで本間が言った。
「また、うつけ殿の信長公でも来ているんだろう。」
小一郎が言った。
「信長様が来ているんか。」と沖が言い、もう沖は賑やかな子供の声がするほうに走り出した。
私達が近づくと子供の中心に一人の従者を伴い、派手な格好をした馬上の武者がいた。

「おぬし達は見かけないものだな。
どこの村のものだ。」
馬上の武者が私達に語り掛けた。
「旅をしているものです。」と私が答えた。
「駿府で、義元の馬を愚弄してきり殺されかかったって旅人か?」
「はい。」
私が答えると、
「面白い、わしは上総介信長じゃ。
尾張、清洲の馬も愚弄しにきてみい。」と信長は言い残し走り去ろうとした。
「お待ちください、ぜひこの木下藤吉郎をお召かかえください。」と走り去ろうとする信長の前に藤吉郎は走り出て土下座した。
「さるか?
犬に任せる。
犬か気に入ればこの旅人と連れてこい、気に入らなければ捨ててこい。」
そう従者に言い残し、信長は走り去った。
「わしは前田犬千代と申す。
清洲まで来てくださるか。」と従者は聞いた。
「もちろん行きます。」
沖は答えた。
「ところで、さるは武田に仕官するんじゃなかったの。」
本間が藤吉郎に聞いた。
「あの殿は、武田、北条、今川とも違う。
なんか、会ってカミナリが落ちたような気がした。
武田の仕官などただの理屈じゃ。
あの殿は理屈では言い表せないなにかがある。
わしは天下が取れる人に仕官するのではなく、あの殿に天下を取らせてみたい。
わしは間違っていた。
天下が取れる人に仕官するのではなく、仕官する人に天下を取らせるんじゃ。
わしが討死にしても。」
藤吉郎は語った。
そんな藤吉郎を犬千代も捨てていく気にはなれなかった。
「それじゃあ、みんなで清洲に行きましょう。」と望月が言った。
「小一郎さん、わざわざ家を用意してくれたのにすみません。
私達、信長様を追ってこのまま清洲に行きます。」
沖が謝った。
「そんなことは、たいしたことないですが、気をつけて旅してください。」と小一郎が答えた。
私達は小一郎と別れ、清洲に向かった。



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