「戦国の時代へ・・・」第7話 湘南B作先生作

車が霧に迷い崖から転落するという、きっかけにより現代から永録元年(1558年)織田信長が今川義元を破る、桶狭間の戦いの2年前の世界へタイプスリップしてしまった中嶋太郎達一行(本間利和、沖芳子、望月美貴)、藤吉郎(のちの豊臣秀吉)は、偶然か何かの導きか織田信長と会うことができ、中嶋太郎、本間利和、沖芳子、望月美貴の4人は客人として、藤吉郎は草履とりとして信長に召し抱えられることになった。
沖を中心として、信長に馬番を命じられた藤吉郎に私達は馬の世話などに明けくれ月日を忘れるくらいに忙しくしていた。
望月の洋服屋はこの時代の人には受け入れられずに中断したような状態になり、望月も馬の世話も手伝っていた。
一方信長はなんとか尾張統一に成功し、小競り合いはあったが大きな戦もなく尾張国内は落ち着いたように見えた。

「中嶋君も馬乗るの上手くなったね。」
私が馬に乗って、城の馬小屋のあたりを歩いていると望月が寄ってきて言った。
私達は最初は馬を乗りこなせずに、落馬などして怪我したりしたこともあったが、今はなんとか馬を乗りこなせるようになっていた。
「大事件、大事件だよ。」
本間が血相を変えて走ってきた。
「なんかあったの。」
私が聞くと、
「攻めてきたんだよ。」
「本間、落ち着いて話しなさい。
攻めてきたって、昨日今日始まったことやないやろ、いつも信長様は攻められているで。」
近くにいた沖も寄ってきた。
「今までのやつとは違うんだよ。
今川の3万近くの大軍が攻めてくるんだよ。
信ちゃんは3千しか兵がいないんだよ。
勝てるわけないよ。
勝っちゃん(柴田勝家)なんか血相を変えて大騒ぎしているよ。」
「そうか、もうそんな年か。」
私はあっさりと答えた。
「私達が来てから1年半くらいたつのかな。」
沖も別に慌てていなかった。
「なんで、みんなそんなに平然としているの。」
本間の話しは気にぜずに、
「馬の準備もしとかなあかんな。」と沖が言った。
「勝ちゃんは篭城だとも言ってたよ。」
本間は言ったが、それも気にせずに、
「中嶋君、桶狭間の時、城で待っているの。」と望月も言った。
「そういうこと。」
本間もやっと、私達が慌てていないわけが分かったようだった。
「せっかく、この時代にいるんだし、馬も乗れるようになったし、様子見に行こうかな。」と私が言うと、
「おらもいく。
芳子お姉様はどうするの?」と本間は聞いた。
「雨で濡れるからやめとくわ。
でも、いくさ場に行くのは危ないで。」沖は答え、
「私も危ないから、止めたほうがいいと思うわ。」望月も言った。
「なにも戦いに参加したりしないよ。
遠目に見ているだけだよ。」と私は言った。
「それじゃあ、お店(望月の洋服屋)に雨具あるから取ってきてあげる。」と望月は言い残し、お店に向かって言った。

その日の夜、夜更けまで広間で軍議が続いているようだった。
私と望月、沖は軍議に出る必要もないので、城内の部屋にいた。
「みんなそろっているか。」と信長が部屋に入ってきた。
「信長様、軍議はいいんですか?」
望月は心配そうに聞いた。
「あんな、軍議なんの役にもたたん。
いつまでたっても結論でずに、後ろ向きじゃ。
たかが、今川の軍が迫っているくらいで。」
不機嫌そうな顔して言った。
「まあ、信長様もお疲れでしょうから、お茶でも飲んでいって下さい。」と沖が言い、望月がお茶を入れた。
「それにしても、今川の軍が迫っていると、城内みんな大騒ぎしているのに、そちたちはやけに落ち着いているな。
わしも、ここにいると落ち着く。」と信長は言った。
「チュウリン、これでいいの。」
鎧をきた本間が入って来た。
「本間も戦をする気なのか?
本間には鎧は似合わん、城の奥で休んでおれ。」
「せっかく、鎧あるのに一度も着ないのはもったいないから着てみただけだよ。」
本間は答えた。
「それに、こんないい天気なのに、雨具を身につけるとは。」と信長は高笑いした。
その後、なにかひらめたような顔になり、
「あめ、雨か。
心配するな。
今川の軍などにこの清洲城に指一本触れさせぬ。
そちたちは、おとなしくこの城で休んでおれ。」と言い残し、部屋を出て行った。
「チュウリン、信ちゃんはああ言っているけど、桶狭間見に行くの?」
本間が聞いた。
「見に行くだけ、見に行こう。
遠くから見ているだけだけどね、本間も鎧着きたし。」
と私は答えた。
「とりあえず、今のうちに寝ておこう。」と私が言うと、
「おら、この重いの来たまま寝れないよ。」
本間が言うと、
「脱いじゃえば。」と望月が言った。
「どうせ夜中には出陣するんやから、めんどうだからそのまま着ていれば。」と沖は言った。
私は寝るために部屋を出て行った。

「チュウリン、信ちゃんが出陣していったよ。」
本間の声で朝方私は目覚めた。
本間はずっと鎧を着たまま起きていたようだった。
「中嶋君、早く鎧着なきゃ。」
沖と望月もやってきた。
この2人もずっと起きていたようだった。
きっと、3人であのまま語り明かしたんだろう。
私は急いで鎧を着ると、信長の後を追った。

その日の昼近く、私と本間は桶狭間の周辺にいた。
「信ちゃんの軍も、今川の軍も見当たらないよ。
どーいうこと?」
本間が言った。
「この辺が桶狭間なはずなんだけど、雨も降らないしね。」
私も疑問に思った。
「とりあえず、少し戻ってみよう。
信長様ならいいけど、今川に見つかるとめんどうだから。」
そう言い、私達は清洲の方に戻った。

かなり、清洲の方に戻ったときに、大軍を見つけた。
「あっ、あれ。
清洲の方だから信長様の軍じゃないの?」と本間が指差して言った。
私もそうだと疑わずに軍の方を見た。
しかし、よく見るとその軍の旗印は織田ではなく今川だった。
「あれ、今川だよ。」
私は言った。
「何で今川の軍が桶狭間を越えて清洲の方に向かっているの。
まずいんじゃないの。」
本間が言った。
私も俺達がこの時代にいることから考えても歴史どうりに物事が進まないようになっているんじゃないかということが脳裏に走った。

「どうしよう。」
本間が言い、私も本間も不安に思った。
「とりあえず、ここにいても危ないだけだし清洲に戻ろう。」
私は言い、清洲に向かって戻りにかかった。

しかし、今川の軍を越えて清洲に戻ることが簡単に出来るはずはなかった。
私と本間は今川の軍に発見され、捕らわれ、縄で縛りあげられ動きが取れない状態になった。

「こいつら、織田の兵だと思うですが、駿府の方から来ましたぜ。」
私達を捕らえた今川の軍の足軽は、鎧を着た武将に報告した。
「なぜ、駿府から清洲に織田の軍が・・・。
楽に尾張進行が出来ていると思ったら、俺達の背後をついて織田の軍が駿府に向かっているのでは・・・」
その武将は慌ててさらに上の武将に報告に行ったようだった。
私達を捕らえた足軽たちも動揺していた。
もし、本当に織田の軍が駿府に向かっていたらその足軽、武将の妻子、親兄弟の安否が保証できないのだ。
その時、私の縄をそっと切ってくれる足軽がいた。
「パパ。」
本間が叫びかけたところを足軽が本間の口を塞いだ。
その足軽は森可成だったのだ。
「拙者についてきて下さい。」
可成は上手く私達を誘導して今川の陣から脱出させてくれた。
私達を捕らえた足軽達は駿府が気になり私達どころではなかった。
「すみません。
何度も助けてもらって、今回は織田家の一大事、私達にかまっている場合ではないのに。」
私は可成に謝った。
「いや、今回お礼を言わなければならないのは、拙者の方です。
信長様から、今川の軍を桶狭間にとどめるように申し付かり、今川の陣に忍んでいたのですが、すでに桶狭間を越えてしまっている軍をどうやって戻すか思案していたところだったのですよ。」
その時、ポツポツと雨が降り出してきた。
「あなたがたの流してくれた情報により、まんまと桶狭間まで今川の軍は戻り、駿府の様子を見に行ったものの報告待ちをしています。」
「我々も桶狭間に向かいましょう。」
可成はいい、私達3人は桶狭間に向かった。
私達は桶狭間を遠目に望むことの出来る小高い丘に着くと激しい雨となっていた。
また、激しさは雨だけでなく、信長軍の奇襲により激しい戦場と化していた。
その激しさは、遠目に見ていた私達にも分かるほどだった。

1時間ほどたつと雨はあがり、それにともなっているのように戦いも収縮していった。
「我軍の勝利のようですな。」
可成は両軍の旗色を伺ってとっさに判断した。
「あなたがたは、戦場を見ないほうがいい。
このまま、清洲に帰りましょう。」
と可成は言った。
私と本間も戦闘が終わったとはいえ、これ以上近づいて見ようとは思わなかった。
この位置からでも悲惨さは十分に手にとって見れたからだ。

私と本間は可成に付き添われそのまま清洲に戻った。
この桶狭間の戦いは歴史どおり今川義元の首をとり信長の大勝利となった。



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