三國志VII 奮闘記 7

 

かつての盟友、士燮を倒し、蜀を平定した哲坊軍。
次に待ち受けるは、北の強国・馬騰の大軍…。


 


209年-10月

「江州の援軍はまだか!」
は乱戦の中で叫んだ。
攻め寄せる馬騰軍の兵士たち。
私の周りにも、すでに馬超や馬岱の兵らが押し寄せていた。
味方の兵士らも懸命に防戦に努めているが、敵の包囲は
ますます厳しいものになっていった。

この秋、わが軍はついに馬騰領・梓潼(しどう)を攻略すべく
成都より10万、江州より援軍5万の兵を発し、
万全を期して攻め込んだ。地図
しかし、馬騰軍の軍師・賈ク(かく)により、
わが軍の進路を見破られ、四方より奇襲をかけられたのである。

梓潼の南、蜀の桟道とも呼ばれる山岳地帯は、
守るに易く、攻めるに難い。
四方から攻撃を受けたわが軍は、一気に窮地に陥ってしまった。
甘寧、於我(おが)らの奮闘により、かろうじて支えていたが、
このままではわが軍は全滅の憂き目に遭うことは必定である。

わが軍は馬超、馬岱、張嶷、びーさる、孟達、王累、馬忠らに
代わる代わる攻撃され、ろくに眠る間もないほど
追い込まれていた。

敵兵が目の前に迫る。
身を伏せ、その喉元をめがけ、槍でなぎ払う。
また、返り血を浴びた。

やがて・・・
「川向こうに、援軍が現れました!」
間者の報告を受け、私はほっと、胸を撫で下ろした。
しかし、まだ包囲が解けたわけではない。
於我、諸葛靖(しょかつせい)餡梨(あんり)は、死中に活を見出すべく
必死に敵軍へ突撃を繰り返している。

と、馬騰軍の後方に異変が起こった。
兀突骨(ごつとつこつ)の軍勢が、
江州の援軍・上総介(かずさのすけ・おめぐ)の流した
「漢中が危機」との偽の情報により、退却を始めたのである。
続いて、火の手が上がった。
紋次郎(もんじろう)許西夏(きょせいかの部隊が、
馬騰軍のびーさる馬忠の部隊に一斉に火矢を射掛けたのである。
そして、太郎丸(たろうまる)の騎馬隊が、
浮き足立った馬騰軍の背後を襲う。
さらに、わが軍の左翼、幽壱(ゆうわん)が馬超隊に
間者を送り込み、見事混乱させることに成功した。

「義兄!今こそ反撃の合図を!」
参軍の諸葛靖(しょかつせい)が叫ぶ。
「よし!全軍突撃!!馬超、馬岱の軍勢を蹴散らすべし!」
わが軍は一斉に反撃に転じた。

うろたえた敵将・孟達がわが軍に迫った。
「われは孟子度!潔く勝負勝負!!」
それを受け、女将軍・餡梨が立ち向かっていった。
「相手にとって不足なし!この餡梨が相手だ!」
孟達は、女が名乗りをあげるとは思わなかったらしく、
一瞬驚いた様子を見せたが、
「ふん!女だてらにでしゃばると後悔するぞ!」
と餡梨に突きかかってきた。

槍の勝負は互角であった。
数十合打ち合ったところで、
餡梨は手強いと感じたか、馬首を返した。
「卑怯なり!」
孟達が追ってくる。
と、餡梨は振り向きざま、槍を孟達に投げつけた。
「うわっ!」
孟達は槍はかわしたものの、体勢を崩したところを、
続いて餡梨が投じた短刀を胸に受け、落馬した。
「それっ!」
餡梨の兵らが孟達を捕縛する。

「ぬう!卑怯ぞ、今度は張嶷が相手になる!!」
馬騰軍の新手の武将が、餡梨に挑戦してきた。
槍を失った餡梨は、懸命に剣で応戦したが、
張嶷の槍の攻撃を支えるに精一杯という有様。
餡梨の劣勢を見かねて、敵の包囲を突破してきた紋次郎が
助太刀に入った。
「紋次郎殿、すまぬ」
すっかり息切れしていた餡梨はその場を離れ、かくして
紋次郎対張嶷の戦いとなった。

これもまた、周囲の雑兵が戦いを止めて見入るほどの好勝負。
しかし、そのうちに、紋次郎の技量が張嶷をわずかに上回り、
振り下ろした薙刀が、張嶷の肩口を斬り下げた。

「敵将・張嶷、この紋次郎が討ち取ったり!」
紋次郎が呼ばわると、敵軍は浮き足立って撤退をはじめた。
於我、紋次郎、甘寧が先頭となってそれを追撃する。

敵軍は、馬騰の本陣まで退いた。
しかし馬超、馬岱、王累、馬忠、楊脩、賈ク、びーさるの
主力部隊は健在である。
ここで、わが軍の知将の2人・上総介、諸葛靖が両翼から
火攻めをかけることを進言。
私はそれを容れた。

「兵糧ごと焼き払え!」
敵軍は、火に包まれた。
しかし、数時間後、突如降り出してきた雨によって、
火は消えてしまった。

「まさか、びーさるが…」
上総介が、つぶやく。
なんでも、びーさる なる敵将は、卜占の才を持ち、
また天候を自在に変えられる神がかり的な才があるというのだ。

わが軍は、火攻めを諦め、一旦陣を立て直し、
鶴翼の陣をしいて、一斉に馬騰軍に攻めかかった。
紺碧空(こんぺきくう)の策で、討って出てきた馬忠の部隊が身動きの
取れなくなったところを幽壱が襲いかかり、これを捕らえた。
続いて、紋次郎が馬岱に一騎討ちを挑んだが、これは返り討ちにあい、
紋次郎はあやうく捕らわれの身となるところを甘寧に救われた。
甘寧は、そのまま馬岱を馬から叩き落として捕獲した。

「次は、この馬超が相手だ!」
黄金の甲冑をつけた威丈夫が、甘寧におどりかかった。
「お前が馬超か!俺は手強いぞ!」
甘寧は馬超の第一撃を受け止め、答えた。
「あれが錦馬超か」
わが軍の兵士たちが口々に言うのを聞いた。
甘寧と馬超は、まさに一進一退の闘いを演じていた。
互いの軍中一の猛者同士の闘いにふさわしい熱戦であった。
勝負は果てしなく続いたが、そのうちに、馬騰の軍から
退き鐘が鳴らされ、馬超はやむなく闘いを止め、自陣に戻っていった。
私も、それを潮に甘寧を退かせた。

翌日、わが軍は再度、火攻めを仕掛けた。
雲ひとつない晴天のため、今度はびーさるの神通力も
通じないようだった。

敵軍がいぶり出されて出てくる。
びーさるの部隊に、上総介が単騎で向かっていく。
「待たれよ、上総介殿!」
太郎丸、紋次郎が止めたが、上総介は聞かず、突進する。
太郎丸や兵らが、慌ててその後を追う。
武芸においては劣る上総介であったが、びーさる なる敵将には
何か因縁があるらしい。以前、
「戦場でびーさると相まみえた時は私を」と
言っていたことがあったのを思い出した。

びーさるは、上総介が向かってくるのを見るや、
ハッとして逃亡を試みようとしたようだが、馬が言うことを聞かず、
逆に上総介に向かってきてしまった。
「びーさる!今こそ決着をつける時が来たようね!」
上総介が斬りかかっていく。
びーさるも覚悟を決めたか、剣を抜いてそれを迎えうつ。
「猪口才な!返り討ちにしてやるわ!」
びーさる軍の兵士は、上総介を狙って押し寄せてきたが、
太郎丸、紋次郎の兵がそれを食い止めた。

上総介とびーさるは、ほぼ互角の闘いを演じていたが、
やや上総介が優勢に見えた。
やがて、びーさるが勝負をあきらめ、逃走を図った。
「深追いは無用じゃ、上総介殿!」
追おうとする上総介を太郎丸が押しとどめた。

その間に、わが軍の主力部隊、於我、諸葛靖、幽壱が馬騰軍の
側面を突いたため、馬騰軍は撤退を始めた。
私はすかさず追撃を命じた。
残念ながら馬騰、馬超、びーさる らは取り逃がした。

捕虜としたのは、楊脩、馬岱、馬忠、トウ賢、孟達、王累。
楊脩なる知者とトウ賢、王累はわが軍門に降った。
馬岱、馬忠は解き放ち、孟達を斬った。

ここに、わが軍は梓潼を奪取し、北方攻略の足がかりを得た。

 

211年-5月

攻め取った土地は、戦で荒れている。
民の心をつかまぬうちに、むやみに戦争はできない。
私は、半年あまりをかけて昨年攻め取った
梓潼、武都の治世に努めていた。

「殿!大変です!」
ある晩、私が夕食に出された膳の鳥肉を頬張っていると、
情報収集担当の紺碧空が駆け込んできた。
「もごもご…(なんじゃ)」
「は。実は、上庸の劉キが、孫策に降伏しました!」
「な、なひっ!!」

「……孫策はこれで、荊州からさらに北まで進出したことになります。
 対策を練らなければなりますまい」
紺碧空は、私が吐き出した鳥の骨肉を浴びた顔を
懐紙でぬぐいながら続けた。

「うむ……」
食欲が萎え、私は側近に酒を所望した。

孫策がここまで進出して来たとは…。
馬騰と手を結ばれるか、あるいは漢中や長安を衝かれるとまずい。
今のうちに漢中を手に入れて、孫策の侵攻を食い止めねばならぬ。

翌日、私は重臣らと漢中攻めを協議した。
諸葛靖、上総介らの軍監、於我、紋次郎の武将らもみな
一致した考えのようだ。
私は、早速漢中への出陣を命じた。

梓潼から私、於我、餡梨、甘寧、幽壱、諸葛靖、
厳顔、上総介、太郎丸、紋次郎が出撃。
総勢14万である。

馬騰軍は、漢中の南、陽平関でわが軍を迎え撃つ。
陽平関の守りは堅く、容易に落ちそうもなかった。
関の門前にて一騎討ちを呼ばわったのは、
敵将・馬超であった。
「われは馬孟起!!甘寧、出てこい!」
それを受けて、甘寧も、
「おお!!梓潼での決着、つけてくれん!」
自慢の薙刀をひっさげてぶつかっていった。
力の馬超、技の甘寧…。
槍と薙刀がぶつかり合い、
2人の闘いは、またも果てしなく続くと思われた。

と、馬騰軍から一矢が放たれ、甘寧の肩に命中した。
「ぐわっ!」
甘寧がたまらず馬から転げ落ちる。

「ちいっ!余計な真似を」
馬超は、矢を射た自軍の方をにらみつけた。
「甘寧殿!」
於我、餡梨が甘寧を救出に飛び出していく。
それを期に、両軍乱戦となった。

わが軍は奮戦の末、陽平関を抜き、漢中の城に迫った。
しかし、城は強固な守りで固められ、1月にわたって
絶え間なく攻めかけたにも関わらず、ついに落とすことができなかった。
諸葛靖の進言もあり、私は一度兵を退いた。

212年-6月

1年が過ぎた。
幸いなことに、孫策軍は、曹操軍との抗争に追われ、
それ以上西には進出してこなかった。
一時期、孫策や劉備に押され気味であった曹操軍であるが、
最近は勢いを盛り返しつつある。
もともと地力はあったのだろうが、
誰か優秀な人物でも取り立てたのだろうか。

「好機到来!」
わが軍はふたたび、漢中を攻めた。
面子は昨年と同様で、兵力合計18万の大軍である。
対する馬騰軍は12万。
馬騰、馬超、馬岱、賈ク、びーさる、兀突骨、法正という精鋭部隊で
再度陽平関へ迎撃に出てきた。

「哲坊殿。どうやら、敵は奇襲に出てくると思われます」
野営中、上総介が進言した。
「奇襲か…」
「夜陰に乗じ、ひそかにここを離れ、山中にて待ち伏せましょう」
私は、それに従った。
翌日、馬騰軍がわが陣に殺到してきた。
しかし、陣はもぬけの空である。

とまどう馬騰軍を、わが軍は四方から一斉に包み込んだ。
乱戦の中、於我が兀突骨を一騎討ちで生け捕った。
そして、上総介は、再度びーさるに挑む。
2人の闘いは互角。しかし、甘寧と馬超の闘いとは違い、
お互い危なっかしいことこの上ない。
ついに見かねた紋次郎が割って入り、びーさるを馬上から
右腕で抱え込んでしまった。
「放せ!」
びーさるは、紋次郎の腕の中でじたばたと暴れるが
紋次郎は放さず、自軍へ連れ返った。

こうなっては、策士・賈ク、法正も打つ手がなく、
わが軍の蹂躙をただ見ているしかなかった。
わが軍は馬騰本隊に集中攻撃を仕掛け、ついにこれを
殲滅した。

この戦いで、わが軍は漢中とともに、法正という軍師、
兀突骨という猛者を得た。
びーさるは、紋次郎の説得にも耳を貸さず、
仕官を断りつづけたので解き放った。
また、賈クは、私を痛烈に罵倒したため、怒った於我が
斬り殺してしまった。

漢中は、わが手に落ちた。
しかし、北は都・長安、伏姫の守る天水、辺境の西涼と続く。

広大な馬騰領攻略は、まだ時がかかりそうだ。

 

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