川中島血戦 武田大膳大夫信玄先生作

一五六一年・・・。武田家本陣から
「これより軍議を始める。幸隆、状況を報告せい。」と言う低く落ち着いた声が響いた。
武田本陣では武田信玄が軍議の開始を告げた。まず真田幸隆が状況を報告した。「敵は魚燐の陣で妻女山に布陣しておるようで御座る。我らは十部隊全体に土塁を築き布陣させ敵が攻めてきたら逆落としにするが上策かと。」
すると
「気に入らねぇな。」
と罵声が飛んできた。
「勘助殿なんじゃ・・いちいち俺の策に口挟むなや・・・。」
幸隆が溜息を突いた。
すると鉄扇に酒瓶を持って武将の間に割り込んだ男が居た、山本勘助だ。「だってよ、相手は妻女山にいるんだぜ?
土塁も纏めて移動すんのか?第一逆落としなんざ古いぜ。オイラはよ、主力で妻女山を奇襲させりゃいいと思ってる。」
「無理言うなや主力を妻女に置いたら御館の本陣は誰が守るのだ!。」
「馬鹿野郎、俺と馬場で十分だ。幸隆、御前さんどっちが良いんだ?。本陣守備か主力部隊か?。」
幸隆は「俺は守備よりも攻撃の方が・・・。」
勘助は間髪入れず
決まりだ。御館はどう思うおいらの策に不満があるなら言ってくれ。」
御館とは勿論の事武田信玄だ。
「うーむそれは良いとして先鋒や兵糧守備などは誰に任せようか?。」
「それは俺に任せてくれ。先鋒は板垣信里・兵糧守備は・・・いらん。」
「如何して要らんのだ?」
「本陣を兵糧庫にすりゃ良いじゃねぇか。御館の軍なら安心して兵糧を任せられる。」
幸隆も「それなら良いだろう。」と返答した。
「ほんじゃ俺は陣に戻ってるぜ。」勘助は酒を飲みながら本営から去った。
幸隆が咳払いをして「では先鋒は板垣信里殿、妻女山の麓まで各自で集合し揃ったら信里殿を一番に「高坂昌信隊・武田信廉隊・内藤昌豊隊・穴山信君隊・原虎胤隊・山県昌景隊の順に突入する。本陣の手前の平原を武田信繁隊に。本陣兼兵糧庫は馬場信房隊・山本勘助隊・そして御館の隊に守っていただきましょう。」
信玄は首を鳴らしながら「この作戦で戦おう。軍議終了!陣に戻れ。」
「ハッ!」諸将が陣屋から出て行った。
すると山本勘助が顔を出したのだ。「よう。入ってもいいかい?」「いいよ」勘助は陣屋に入った。「なんか浮かねぇ顔してるがどうしたんだ?」
信玄は「いや・・・。柚佑姫を連れて来れば良かったかなと思ってな・・・。」と恥ずかしそうに言った。
「馬鹿。お前は俺と一緒に坊主になったんだぜ?。お前は格好がいいからいいがな俺は脚が不自由だわ左目が見えないわついには髪が無いんだぜ。
絶対女は寄り付かん。」
勘助は苦笑した。「酒飲むか?」「遠慮する」
「俺も先に陣に戻るぜ。」勘助は去った。
「この戦に武田の命運はかかってるんだな・・・・。」信玄は風に翻る「風林火山」の旗を眺めながら小声で呟いた。
一刻後伝令が陣屋に入ってきた。「板垣様ら諸将の隊全隊目標を妻女山として行軍を始めました!。」
「そうか・・・。」
伝令が出て行くと
「そろそろワシも本陣に行くとするか・・・。」と愛馬「黒雲」に乗って兵糧庫兼本陣に馬を走らせた。
「おお御館お着きになったかい。あっちに床机があるから座ってくれ。いずれ小姓が来る」。
勘助と馬場信房は信玄の床机と少し離れて床机を設置した。
「信房状況は如何じゃ?」馬場信房は「はい。現在板垣殿を先鋒に六部隊が妻女を目指しております。」
「場所は解らんのか?」
「その・・・。」
信房が戸惑っていると勘助が「俺がなんで奇襲を選んだか分かるか?こんな濃い霧は天が「奇襲しろ」って言ってるのと同じじゃないか。」
信玄は納得したか「そうだな・・・。」と呟いた。
信房は驚いた「こいつ俺より後の仕官なのに敬語を使ってない・・・。」
少々口惜しい気がするようだ。そして・・・。
勘助は酒を飲み信房は何か書き物をし信玄は軍配を磨いていた。
この軍配には特別な思い入れがある。父・信虎を追放してから使い続けている軍配である。「風・林・火・山」の四文字を刻んだ軍配である。
二刻経った時伝令が入ってきた。「妻女山に敵の姿ありませぬ!。」勘助は酒瓶を落として「それは本当か!。」
確かに信里殿が見ております。只今本陣に帰陣中との事です!。」
伝令は高坂軍陣に戻っていった。
「今まで暇だったがやっとこさ動きがあったぜ。」
勘助は苦笑して具足を着け始めた。「これからが正念場だな・・・。」勘助は呟いた。

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