「森蘭丸」第一話.森家に咲いた蘭の花 蘭香先生作

--雪がつもり始めた冬の夜. オギャア.オギャア.....産声が屋敷に響いた。
「男か!!?女かっ!!?」この屋敷の主人.森可成は待女が寝殿から出てくるなり.慌てて聞いた。「え....」「あ.赤ん坊は元気か?」待女は驚きながらも.とりみだす可成を落ち着けながら微笑んで答える。「はいはい.可成様.お慌てになさりませぬよう...赤児様は.とてもお元気ですわ。男子にござります。」可成は男の赤子と聞いて少し肩を落とした。
次の赤子は.女を望んでいたのだから。
やはり父親だ。胸を踊らせながら寝殿へと向かう。

シャシャッ。みすをどかし.母の胸元に横たわる赤児の顔をのぞいた。
「おお....なかなかの良い顔立ちではないか!でかしたぞ.....」
兄も誇らしげに微笑む。
「殿.お名前のほうは?」「うむ....ここは男らしく育つよう.森乱丸長定と名付けるのはどうじゃ??」
しかし兄は.顔をしかめた。そして.父の肩を叩く。「父上....乱丸などと名付けられようものなら.乱れた男子になりまするぞ。同じ「ラン」なのなら......」庭を見つめ.長可は片隅に咲く小さな花を指さした。「あの蘭のように華麗に育つよう.蘭丸と名付けなされ。」「しかし....それでは女子(おなご)のようではないか.....」可成はしばらく文句を言っていたが.たしかに乱丸では乱れた.反抗者に育ってしまいそうだと感じたので.しぶしぶ承知した。

--蘭丸と名付けられたこの子供......そう.これが後に織田信長の家臣となる.森蘭丸長定である。
「あれ.蘭丸様.....何をなさっておられるのですか?」
「弓のけいこにござりまする。」
「弓でございますか.....どれどれ。私.拝見しとうござります。どうぞお見せくださりませ。」
蘭丸は照れながらも.矢と弓を手に取る。そして.ピンと張った弓に矢をつがえ....ピインッと放った。幼い子供の放つ弓.一体どこへ飛ぶやら......心底はらはらしながらも.見守る乳母。すると.蘭丸の放った矢は.....的の中心に音を立てて刺さったではないか。
「まあ!蘭丸様......?」乳母は驚き.可成を大声で呼んだ。それを聞きつけて.母も走ってくる。
「なんの騒ぎですか.そうぞうしい!まさか.蘭丸になにかあったの!?」
乳母は笑いながら訓練所の的を指さす。「あれを.蘭丸様が弓矢のおけいこでお放ちになったのでございます!
蘭丸様の将来が.とても楽しみですわ.....」「おお.....あれをか!すごいぞ.蘭丸よ!さすがわしの子....(すでに親バカ)」「あらまあ.私の子でもありますでしょう。殿ったら.....」母も茶目っぽい顔で.微笑んだ。
しかし----暖かい幸せは.この屋敷の中だけであった。

尾張国の大名.織田信長が天下統一の道を歩みだした頃.この世は長い「戦国の世」へと入っていったのである。
各地の大名達は次々と戦を起こし.殺戮を積み重ね.土地を占領する....そのような事が.何度も繰り返されていく。
そして.蘭丸がそろそろ5つの誕生日を迎えようとする頃---父.森可成も合戦へと出向く事となったのだ---姉川の戦いと言われる.信長の妹「お市」の夫浅井長政との合戦である。
母は風邪をこじらせた為.蘭丸一人見送りに行った。

父の好きだった蘭の花を一輪持って.....
「御父上!お見送りに参りました!」
深めにかぶったかぶとで顔が見えなかったため.蘭丸は大声で叫んだ。しかし.返事をするものは誰もない。
蘭丸は.もう一度叫ぼうとする。

すると......「おお.蘭丸!蘭丸か!?」栗毛の馬が.こちらに近づいてくる。
「父上!」蘭丸も走り.蘭の花を手渡した。
「御父上.どうぞ主君織田様の恩為に.おてがらを立ててください。」
可成は深くうなずくと.蘭の花を眺める。

「美しいのう....蘭の花か....蘭丸.おぬしもこの蘭のように美しく育つのじゃ。
よいか.今は戦国の世......決して散らぬよう.この乱世を駆け抜けよ。」

「----?」
可成は.そう言い残すと馬を傾けた。
それが.最後に蘭丸が見た父の姿-----だったのだ。
それからしばらくして.可成が討ち死にしたという知らせが来た。
姉川の戦いでの.少ない犠牲者のひとりだったらしい。(ごめんなさい!この戦いだったかどーかわかんない!)
幼い蘭丸には.可成の言葉は難しかった....しかし.あの言葉を聞いたのは蘭丸ただ一人だ。

第一話.完



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