新説 関ヶ原、西軍圧勝ス。 司馬ごくたろう先生作

(前 編)

三成 小早川秀秋が裏切った。
大谷吉継の陣営がみるみる崩れていく。
遙か遠くの毛利も吉川も動く気配がない。
やられた。
家康にしてやられたのだ。
負ける。
三成は頭を抱えた。
どうする。
負けるのは嫌だ。
どうすればいい。
負けたくはない。
だが、どうすれば。
どうすれば、この危機を乗り越えられるのか。
何か、何かいい方法があるはずだ。
考えろ! 考えろ三成。
お前はここで朽ち果てるつもりか。
天下は。 天下はすぐそこぞ! 
その時、三成の脳裏に起死回生の妙案が浮かんだ。

突然、三成は走り出した。
走れ!
走れ!
走れ!
「お館さま!」
「との!」
近習達が突然の出来事にとまどいながら呼びかける。
三成はそれを無視した。
今は、かまってられぬ。
走るのだ。 
走って、走って、走り抜くのだ!

いや、馬だ。
いきなり近くの騎馬武者に掴みかかり馬を取り上げた。
騎馬武者も唖然とするばかり。
だが、そんなことのはかまっておられぬ。
一刻を争うのだ。

「治部殿、どこへ参られる!」
島津の陣を突き抜けた。
今の声は義弘か、豊久か。
いや、この際そんなことはどうだっていい。
ここは最前線だ。
ここを抜け家康の本陣へ馬を走らせるのだ。

いかん! 本多忠勝だ!
あやつに見つかってはまずい。
しまった。 こっちを見てる。
や、見つかったか。
なんとか切り抜けねば。
そうだ。 ここは笑顔じゃ。
あわてては、怪しまれる。 笑顔だ。
「やぁ。 本多殿。 やってまっか? ほな。」
やった。 かわした。
本多忠勝の奴、蛙が豆鉄砲でも食らったような顔をしておるわい。
しかし、あやつもとんだ間抜けよのう。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
おお。 見えた。
あそこじゃ。
あそこが、家康の本陣じゃ。
三成は馬から飛び降りると家康の前へ躍り出た。 
「家康殿! 石田三成、ただ今、見参!」

家康は肝を冷やした。
まこと三成。
かの上杉謙信のごとく大将同志の一騎打ちでも仕掛けようというのか。
だが、意に反して三成は満面の笑みを浮かべる。
「内府どの。 お喜びくだされ。
この石田治部少輔、たった今より内府どののお身方となり申す。な~に心配はござらぬ。 この三成がはせ参じたからには西軍のへなちょこ侍の七万や八万、ものの数ではござらぬ。」
家康あぜん。
ど、どうした。 い、いいのか。 これで。
まてよ。 いや、しかし。 え? なぜ?
家康が頭をひねる。
いかん、家康に深く考えさせてはいかん、と三成。 
家康の手を握り高笑いをする。
「家康どの。 何を心配してござる。 夢ではござらんよ。二人が力を合わせれば、なんびとたりとも家康どのの行く手を遮る者はおりませんよ。 さあ、鬨をあげなされ。 さあ。」
家康、ま、いいか。
ぱっと気持ちも晴れ大きく声を上げる。
「皆の者! 石田どのが身方に参ったぞ。
これで家康は天下無敵じゃ。 この戦、勝ったも同然ぞ。
全軍に伝えろ。 石田どのがお身方じゃあ。」
やった。
これで東軍は勝つ。
徳川・石田の連合東軍が勝つのだ。
この三成、決して負けはせぬ。
西軍が負けても石田三成が勝てば良いのだ。
これで歴史は変わる!



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