『天下布武 修羅の章?』  司馬ごくたろう先生作

今日も帰蝶は荒れていた。
流石は蝮の娘。
天魔の如く皆から恐れられている儂にもちっとも動じない。
「ウソツキ!」
叫びながら挑んでくる。
越前土産を買ってきてやらなかた事に腹をだてているのだ。
「仕方が無いじゃないか。土産なんぞ買う暇なかったんじゃ。こうして命からが・・・」
はっ!危ない!
帰蝶の鉄拳が炸裂した。
おっと、やるな。
でも所詮はおなごじゃ。儂の敵ではない。
渾身の一撃をかわされた事に怒りを増したのかさらに帰蝶は突っ込んでくる。
なに?
いつのまに覚えたんだ。左右の腕を用いてくる。
ジャブ!ジャブ!左ストレート!おっと今度はアッパーか!
楽しいぞ!帰蝶。
なかなか腕をあげたな。
だがな。
甘いんだよ。脇が。
それにリズムがワンパターンだ。

儂は帰蝶の攻撃を右に左にかわしながら徐々に間合いを詰めていった。
頑張ったな帰蝶。
だが、ここまでだ。
儂とお前の差を思い知らせてやる。
儂はすっと腰を低くし帰蝶の左脇の下にねらいを定めた。
さすが帰蝶。
そうはさせじと連打攻撃。
右ジャブ・・・よけたぜ!
左・・・ははは届かねぇよ!

儂は突然目の前に散った花火に驚いた。
ど、どうしたんだ?
足が動かない。
そのまま膝がガクンと落ちるのを感じた。
儂の意に全く反して体が落ちる。
目の前には帰蝶の股・・・はしたない!

・・・えっ?ま、股?

朦朧としていく意識の中で儂は気がついた。
信長一生の不覚。
こいつ、何時の間に踵落としを習熟していやがったんだ。
走馬灯の様に今の光景が脳裏で繰り返される。

最初の攻撃は難なくかわした。
次の攻撃も予測のうちであった。
だが。
三度目の攻撃はかわせなかたのだ!

何時の間にか膝を着いていた。
バランスを取ることさえできない。
儂は無様に前のめりになって・・・そのまま。
そのまま・・・床へと。
冷たい床へと頬を打ちつけた。
気持ちがいい。
熱い痛みと屈辱をも忘れさせるかのような
ひんやりと冷めた床。
気持ちがいい。

いや。
気持ちがいいのはそれだけのせいではなかった。
儂は気がついたのだ。
儂は天下を取れる。
一度の攻撃、二度の攻撃はななくこなせる。
だが三度目の攻撃は・・・
さすがの山の虎野郎でもかわせまい。
儂は勝つ!
三段撃ちじゃ!
鉄砲を買え!
鉄砲を作れ!
儂は心の中で叫んでいたが
意識が遠のいている事さえ気がつかなかった。
                        
     ( Zzz... )



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