『サンタが城にヤッテクル』 司馬ごくたろう先生作
(序 幕)
カーテンに2人の男の影が映っている。
一人は高貴な侍。もう一人は神父のいでたち。
神 父:「ソシテ、サンタクロースハ、コドモ達ニ、夢ト希望ヲ与エルノデ~ス。」
高貴な侍:「なるほど。さんたくろすとか言う爺は・・・。」
神 父:「オー、違イマス。サンタクロースデ~ス。」
神父、大きな身振りで否定する。
高貴な侍:「さんたく・・・ええい、ややこしい。さんたじゃ。うん、三太。三太で十分じゃ。」
神 父:「オー、違イマス。サンタクロースデ~ス。」
高貴な侍、少し肩を震わせたかと思うとそっと刀を抜く。
神 父:「ア、イヤ、サンタ違イマス。サンタク・・・ア、イ、ヤ、ヤ、サンタで十分デ~ス。」
神父、大きな身振りで誤る。
高貴な侍:「アハハハハハハ!」
大きな高笑いと共に高貴な侍と神父の影が消えていく。
(第 一 幕)
サスケ :「えぇ~い。寒いな。・・・せっかく山から下りてきたのに、ちっとも暖かく無いじゃねぇか。」
脇から黒装束の男(サスケ)が手もみ、足踏みしながら現れる。
反対側から黒装束に赤い頭巾とちゃんちゃんこを着た男(三太夫)も現れる。
三太夫 :「こらっ!しっかりと見張りをせんか。」
サスケ :「あっ。お、お、お頭(かしら)・・・わっ!な、な、な、なんですその格好は!」
サスケ、さぼってるのがバレて驚くが、三太夫の姿を見てもっと驚く。
三太夫 :「やかましい!静かにせんかっ!城のやつらに気づかれてしまうだろ!」
サスケ :「やっ、えっ、だ、だ、だってお頭、その格好・・・。」
三太夫 :「おぉこれか?どうじゃ?似合うじゃろ。」
三太夫、満足げにくるりと回って自分の衣装を披露する。
サスケ :「そうじゃなくて!お頭、そんな派手な格好してたらの、それこそバレてしまうでしょっ!」
三太夫、サスケの言葉に激怒する。
三太夫 :「なんだと!派手じゃと?・・・似合わんと申すのか!」
サスケ :「そうじゃなくて!似合うとか似合わないとかじゃなくて・・・。」
三太夫 :「わ、わしの還暦のお祝いに孫たちが作ってくれた、この頭巾とちゃんちゃんこを・・・似合わんと申すのか!」
サスケ :「あっ!お頭、もう還暦でしたかぁ!お、おめでとうございます!」
三太夫 :「お?そ、そうかぁ?似合うかぁ?へへへ・・・。」
話が全然噛み合っていないのだが、どうにか三太夫は機嫌を取り戻す。
サスケ :「お、お頭。準備は万全です。あとは例の場所から忍び込むだけですぜ。」
三太夫 :「おぉ、そうじゃ。忘れるとこじゃった。」
サスケ :「それに大発見もてしまいましたぜ。
三太夫 :「大発見?なんじゃ?」
サスケ :「それは着いてからのお楽しみです。さっそく行きましょう。こちらです。」
三太夫、サスケ。ソデへ走り去る。
(第 二 幕)
安土城天守。
広間に集まる家臣たち。
宣教師のフロイスを囲んで話に魅入っている。
信長も上機嫌。
フロイス:「ソシテ、マッ赤ナ、オ鼻ノ、トナカイサンハ、今宵コソハト、喜ンダノデ~ス。」
家臣一同:「ガハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
信 長:「それでトナカイと申す奴の鼻は赤いのか。どんな顔じゃ!一回見てみたいのぉ~!」
天井から三太夫、サスケ。様子を覗き見してりる。
サスケ :「た、楽しそうですね、お頭っ。」
三太夫 :「何をのんきな事を言っておる。予定より人が多すぎるではないか。」
サスケ :「大丈夫でしょう。どうせ信長の家臣たちなんぞボンクラです。信長の頸だけを狙ってヒットアンドウェイです。」
三太夫 :「ヒットアンドウェ?難しい言葉を知っておるな。どこの国の言葉じゃ?」
サスケ :「お頭。そんな事より、大発見。知りたくないですか?」
三太夫 :「おぉ。何なのじゃ?その大発見とは。」
サスケ :「これですよ。」
サスケはニヤリと笑うと懐から何かを取り出した。
パッと明るくなる。
手に火がついているのだ。
サスケ :「忍法魔津血の術。」
三太夫 :「おぉ。こ、これは!」
三太夫、びっくり。
サスケ、にんまり。
床の上に大きな塊が置かれていた。
三太夫 :「忍法蝋燭の術。」
三太夫は懐からロウソクを取り出すとサスケの手元の火を移した。
さらに明るくなる。
床に置かれた塊は白い布に包まれたものであった。
サスケはゆっくりと包みを解いた。
茶釜であった。
三太夫 :「こ、こ、これは!」
サスケ :「そうです。忍法・・・じゃなかった。失われたはずの茶釜。」
三太夫 :「平蜘蛛・・・。」
驚いたように平蜘蛛の茶釜に魅入る三太夫。
三太夫 :「どうしてこれがここに・・・。」
サスケ :「驚いたでしょう?これ、本物ですかね?偽物かも。」
三太夫 :「本物ならば・・・。」
サスケ :「本物ならば?」
三太夫 :「本物ならば、以前、儂が弾正の屋敷に忍び込んだときにつけてやったラクガキが彫ってあるはずだ・・・。」
サスケ :「ラクガキ?」
三太夫 :「あぁ。ちょっと見ただけではわからぬが底の所に三ちゃん参上!ってな・・・。」
三太夫は平蜘蛛の茶釜を持ち上げ底を覗こうとした、その時。
信 長:「誰かいるのかっ!」
信長の怒号。
三太夫 :「しまった!不覚。忍たるもの平蜘蛛に魅せられて・・・。」
言うが早いか煙幕を一発お見舞いし脱出・・・しようとしたら、あわてた弾みか天井板が割れて
三太夫、サスケ、まっ逆さまに落ちてしまった。
三太夫 :「イテテテテっ・・・。」
家臣A :「何奴っ!」
家臣B :「クセモノ!」
家臣C :「捕まえろっ!」
落ちた弾みで腰を打ったのか三太夫もサスケも動けない。
万事休すか?
信 長:「待てっ!」
突然、信長が皆を制した。
三太夫をじっと見つめる信長。
睨み返す三太夫。
沈黙。
家臣たちも見守る。
信 長:「お主・・・。」
信長は驚いた表情を堪えつつ静かに問うた。
信 長:「お主の名は?。」
三太夫、答えようと身を起こすと激痛が走って言葉にならない。
それでも辛うじてわずかな言葉が口から出てきた。
三太夫 :「さ・・・。さ・・・。儂はさん・・・だ・・・ゅぅぅっ!」
痛みではっきと答えられない。
だが、信長にははっきりと伝わったようだ。
信 長:「三太かっ!」
三太。そうじゃ。儂は三太夫だと、三太夫は縦に首をふった。
それを見て信長、満面の笑みを浮かべフロイスを振り返った。
信 長:「フロイス~っ!サンタじゃ!サンタじゃ!儂の所にもサンタが来たぞっ!」
今度はフロイスが驚いた。
フロイス:「ア、イヤ、ノブナガ様。彼、サンタクロース違イマス。サンタ、モット・・・。」
信長は聞かない。核心に満ちた声で言う。
信 長:「赤い頭巾。赤い着物。白く長い髭。まさしくサンタじゃ。本人もそう言うておる。」
フロイスは尚も否定する。
フロイス:「ア、イヤ、ノブナガ様。本物ノ、サンタクロース、ナラ、トナカイ、居ルハズデ~ス!」
ちょうど、その時、サスケも漸く顔を上げる事ができた。
三太夫は尻餅をついて落ちたのだが、彼の場合は顔面から落ちたらしい。
鼻の頭が真っ赤であった。
信 長:「トナカイじゃ~っ!赤鼻のトナカイもちゃんと居るではないか!」
フロイス:「ア、イヤ、ノブナガ様。本物ノ・・・。」
信 長:「何を慌てておる?フロイスも言うたではないか!赤頭巾、赤着物、白い長い髭に赤鼻トナカイと。」
信長は三太夫とサスケを指差し叫ぶように言った。
フロイス:「ア、イヤ、ノ・・・。」
信 長:「儂の所にもサンタが来たゾ!良い子にしてるからサンタが来たんだゾ!」
信長の熱狂ぶりにフロイスも否定できなくなってきていた。
もとより彼とて本物のサンタクロースを見たことは無い。
ただ、伝説通り・・・とはいかないが、ほぼ同じ状況の老人がここに居るには確かだ。
信 長:「サンタよ!プレゼントはあるか?良い子にしてた儂にもプレゼントを渡しに来たのだろう?」
信長は嬉しそうに周囲を見回した。
それらしきものはない。
はて?といぶかしんでいるとサスケが白い包みを抱えているのに気がついた。
どうやらサスケはこの包みをかばったが為に顔から落ちてしまったのだろう。
信 長:「白い袋の中のプレゼント!おぉ、まさしくそれじゃな?どうじゃ?早く見せてくれ。」
信長は言うが早いかサスケの手から白い包みをもぎとった。
信 長:「こ、こ、こ、これはぁ~っ!」
信長の顔・・・顔中が笑顔に変わる。
信 長:「ありがと~ぅ!」
信長はぎゅっと三太夫を抱きしめた。
三太夫 :「ん・・・。」
ただでさえ御老体。
しかも背中と腰を痛めた三太夫は信長の力いっぱいの抱擁に思わず意識を失ってしまった。
サスケも、もうどうでもいいやという様子。
信 長:「酒じゃ~っ!宴じゃ~っ!今日はめでたいゾ~っ!」
家臣一同:「ガハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
(幕)
百地三太夫
服部半蔵とならぶ伊賀忍者の大頭目(上忍)
しかし服部半蔵が幕府お抱えとなり幾つかの史料を残しているのに対して
百地三太夫の正体は不明な点が多い。
高貴な侍 ・・・ 織田信長
頭領三太夫 ・・・ 百地三太夫
黒装束の男 ・・・ サスケ
神 父 ・・・ フロイス
協 力 ・・・ 織田家臣団のみなさん
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