「戦国の時代へ・・・」第11話 湘南B作先生作

車が霧に迷い崖から転落するという、きっかけにより現代から永録元年(1558年)織田信長が今川義元を破る、桶狭間の戦いの2年前の世界へタイプスリップしてしまった中嶋太郎達一行(本間利和、沖芳子、望月美貴)、藤吉郎(のちの豊臣秀吉)は、偶然か何かの導きか織田信長と会うことができ、中嶋太郎、本間利和、沖芳子、望月美貴の4人は客人として、藤吉郎は草履とりとして信長に召し抱えられることになった。
その後藤吉郎はねねとの祝言をあげ侍大将に出世し秀吉の名を許され、芳子も馬の世話、美貴は洋服屋を相変わらず行っていた。
また、信長の本格的な美濃攻めのための出城小牧山に私達も移っていた。

「ねねっち、またこんなところで油売っている。」
私達が美貴の洋服屋でいつものように話していると利和がやってきた。
「さるが、いつも出歩いていつ戻ってくるかわからんのやし、ねねっちもたまにはここに話しに来てもいいやろ。」
芳子が言った。
「まあ、さるも遊んでいるわけではないんだけど。」
私が言うと、
「美濃の武将を調略しているんでしょう。」
美貴も続けて言った。
「さるは、仕事しているようにして、調子よく遊んでいるところがありそうやからな。」
芳子が言った。
「まめに手紙もらっているし、その内容によると仕事に励んでいそうだけど・・・。」
ねねはそう言いつつ不安そうな顔をした。
「芳子ちゃん・・・。」
美貴は芳子を制止して、
「秀吉さんはちゃんと仕事しているからだいじょうぶよ。」と言った。
「そんなことより、ねねっちお客さんだよ。
さっきねねっちの家の前を通りかかったら、怪しい人がうろうろしていたから、声をかけたんだ。
そしたら、ずっと前さるの実家行ったとき会った、さるの弟の小一郎だったんだよ。」と利和が言うと小一郎が店に入ってきた。
ねねと小一郎は初対面であった。

「ちょっと、用事があってこっちの方に来たのですけど、織田家の家臣になっていらい兄者から何の音沙汰もなく気になっていたので。」
小一郎は言った。
実際に秀吉はまったく実家とは連絡を取っていなかった。
「すみません、今、秀吉さまは留守にしていていつ戻ってくるのか分からないのですけど。」
ねねは申し訳なさそうに言った。
「いや、別に用があったわけでもなく、元気にしていればそれでいいですから。
あまり、長居するわけにもいかないのでこれで帰ります。」と言って小一郎は帰ろうとした。

「小一郎さん待ってください。せっかく弟様が尋ねてくれたのにそのまま帰すわけにもいかないので、2、3日中には戻ってくると思うのでしばらく待っていてくれませんか?」
ねねが引き止めた。
「そうやね。
ねねっちも一人で留守番しているより小一郎がいた方がええやろう。」と芳子も言い私達も説得して小一郎はそのまま数日滞在することになった。

数日後には秀吉が帰って来て、小一郎を大変歓迎した。
また、秀吉は美濃の野武士蜂須賀小六なども伴うようになり、ねねの苦労を察した小一郎は秀吉、ねねに引き止められたことなどもあり、ずるずると小牧に滞在するようになった。
小六はしっかりした体つきをしていて、目つきが鋭くまさに武骨者という風貌をした人だった。
私達からみても恐いくらいの人だった。
しかし、利和とは何故か打ち解け色々な話しをしているようだった。

そのような頃、私達は信長に小牧山城に呼び出された。
私達が一室で信長が来るのを待っていると、
「今日は何の話しかしら?」
美貴が聞いた。
「美貴ちゃんの洋服屋を止めさせようとする話しやないんか。」と芳子がからかった。
「オラは何の話しだか検討はつくよ。」と利和が自慢げに言った。
「なんの話し?」
私が聞くと、
「きっと、お市様の輿入れの話しだよ。
噂では、たぬきおやじ(松平家康のちの徳川家康)の息子の竹千代(のちの信康)に徳姫を嫁がして、お市姫を浅井長政に嫁がして美濃攻めをしやすくするみたいよ。
もう、さるなんかお市様にぞっこんだったら輿入れが決まってからショックを受けて大変だったんだから。」
と利和は答えた。
「何言うとるんや。
さるにはねねっちという立派な人がいるやんか。」と芳子が不機嫌になった。
「まあまあ、秀吉君にとってお市様はあこがれのようなものだから。」と美貴が芳子をなだめた。
「オラもさると一緒に何回かお市様を見に行ったけど、やっぱりかわいかったよ。」
利和は言った。
「でも、この輿入れがなかったら小谷城の悲劇は起こらなかっただろうしね。」
私は少し複雑な気がした。
「今、そんな先のこと考えてもしかたないやろう。
それはその時考えよう。」と芳子が言い、
「それじゃあ、私達にお市様について近江に行けとかいう話しかな?」と美貴がまとめた。
「オラは、お市様について近江に行くのも悪くないと思うけどね。」
利和は言った。
その時、信長が部屋に入ってきた。
「信ちゃん、お市様の輿入れの話しでしょう。」
信長が部屋に入るとすぐ利和が口を開いた。
「市の輿入れがそちたちに関係あるのか?」
信長は聞き返した。
「一緒に行ってくれとか?」
利和は言った。
「そんなことで、いちいち呼び出しはせぬわ。」
信長は不機嫌になり、
「墨俣築城の話しじゃ。
勝家(柴田勝家)、長秀(丹羽長秀)そろいもそろって失敗しおった。
墨俣築城は絶対可能なはずなんじゃが、わしの家臣はそんなに無能のやつばかりなのか?」と続けて言った。
「別に勝家さん、長秀さんも無能だとは思わないけど。」と美貴が言った。
「信ちゃん、それってオラ達に墨俣築城をやらせようとしている。
まあ、オラに言ったところでさるにふるだけだけどね。」
利和は言った。
「そちたちに頼むつもりはなかったのだが・・・。
さる、さるなら出来ると申すか。」
信長は言った。
「小六さんとかも家臣に加わったし、小一郎もいるし、さるの家臣って最近凄そうな人が加わってきたからなんとかなりそうだよ。」と利和は明るく答えた。
「もし、家臣が無能だと思ったら、有能な家臣を新しく雇えばいいだけやないの。
さるだって有能な人をどんどん調略して自分の家臣にしているで。」
芳子が信長に言った。
「新しい家臣か。
これからは新しい時代が来る、その時代にあった新しい家臣は必要かも知れん。
とりあえず、今回の墨俣築城はさるに任せる。
利和よりさるに伝えろ。
その代わり、失敗したら、さると利和両方の首はないと思え。」
信長は言い捨て、そのままいつものように出て行った。
「ちょっと、どういうこと?
勝ちゃんや長秀は失敗しても首があるのに、なんでオラとさるは失敗したら首がなくなるの?」
利和は言ったが信長は聞く耳持たず、そのまま去って行った。
「やばい、チュウリンなんとかしてよ。」
利和は私に泣き付いてきた。
「知らないよ。
自分でやると言ったんだからなんとかしなさい。」と私は言った。
美貴と芳子の態度も一緒だった。
「がんばってね。」と一言、言うだけだった。
歴史上も成功するこの墨俣築城が失敗するとは私に美貴と芳子は思わなかったのだ。

利和は慌てて、秀吉のところに向かった。
その話しを聞いた秀吉は
「利和、よくこの仕事を引き受けてくれた。」
と大喜びした。
ねねと小一郎は織田家の重臣の勝家、長秀が失敗したこの築城を秀吉が出来るのか心配だったが、そんな心配はよそに小六、小一郎と秀吉はさっそく別室で作戦を練り始めた。
利和もその会議に参加して話しを聞いていた。

私と美貴、芳子の三人はあえて会議には参加しなかった。
美貴はねねの不安を解くので大変だったようだった。
芳子はなにもしていないわけではなく、織田家の馬の世話を引き受けていた芳子はさっそく優秀な馬を集め出した。

そして、会議が終わるとさっそくおのの準備を始めた。
墨俣築城は美濃斉藤家の本城、稲葉山城の目の前の墨俣という長良川の中州に城を作るというもので、普通に作ろうとすると、当然美濃の軍勢が襲ってくる。
それを持ちこたえながら城を築くことは困難極まりないことだった。
秀吉の作戦は、長良川の上流で城の材料を組み立てそれを川に流し一晩のうちに城を築くこうとするものだった。

私達は作戦決行の日、小牧山にある、秀吉の家でねねとともに吉報を待った。
利和も上流での材料組み立ての時は見に行っていたが夜には信長に作戦決行を報告するのも兼ねて小牧山に戻ってきていた。

その翌日の早朝、城無事完成の吉報が私達にもたらされた。
吉報がもたらされるると、
「秀吉さまのところにお祝いを言いに行きます。」とねねは言い出した。
「ねねっち、だめだって。
墨俣なんて城っていっても砦みたいなものなんだから。」と利和は言った。
「そうよ、いつ稲葉山城の軍勢が攻めてきてもおかしくないのよ。」
美貴も説得したが、
「秀吉さまが始めて与えられた城、行かないわけには・・・。」と言ってねねはいっこうに聞かなかった。

行くにしてもねねに一人で行かすわけにもいかず私と利和もついて行くことにした。
「ほら、ねねっち、あれが墨俣城だよ。」
旅は順調に進み墨俣城が見渡せるところまで来た。
私達はそのまま墨俣城に向けて足を進めたが、近づくに連れて城の様子がおかしいことに気付いた。

「あっ、チュウリン。」
利和がある方向を指差した。
その方向を見るとものすごい勢いで迫った来る集団があった。
稲葉山城の軍勢だった。
「まずい」と思う暇もなかった。
私が腰に差していた刀を抜くか抜かないかのうちに私達はみりみる敵の軍勢の中に覆われていった。
私は肩に痛みが走った。
「チュウリン。
「太郎さん。」
私を呼ぶ声が遠くに感じられた。
そのまま、私の意識は遠のいていった。



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