次郎、突撃 うつけゆーろー先生作

武田の老将、山県三郎兵衛昌景は敵の銃弾に当たり、落馬した。
昌景の周りにいた騎馬武者たちも同じように

あっけなく死んだ。

(なんてこった)
次郎の気持ちは自分でも抑えきれないぐらいの混乱状態にあった。

天正三年五月。織田信長は武田軍に包囲された三河長篠城を救援
すべく、三万の軍勢を率いて長篠設楽ヶ原に陣をしいた。

これを見た武田勝頼は
「信長め、怖がって攻めて来ぬわい」
余裕の表情で突撃体勢を整えた。

(なんてこった)
無敵を誇った武田の騎馬隊がこのようにあっけなく倒れてよいのか・・・。
(なんてこった)
三郎は修羅場から抜け出した。
(なんてこった)
小さくつぶやいていた。
戦場の空は真っ青に透き通って見えた。

三郎は無意識のうちに鞭を振った。
三郎の馬はまっすぐに馬防柵へ走りだした。

鉄砲玉は何発も飛んできた。
が、不思議と次郎には当たらなかった。

疾如風 徐如林侵 掠如火 不動如山・・・

武田軍団の中で連戦連勝を重ねてきた次郎は
(どうしても勝たねばならぬ)
と考えた。いや、何も考えていなかったが、そういう気持ちが次郎にあった。

とはいっても今さら勝てるはずが無い。
いくら次郎が奮戦しても武田の兵士たちの多くはその辺りに死体となって
転がっている。

次郎は今まで越えることのできなかった馬防柵を一息に飛び越えた。
織田軍は動揺した。誰も超えられないと思っていた馬防柵の内に入られた。

次郎は槍を振った。敵を斬った。しかし、次郎の目には何も映らなかった。

眉間を斬られて目に血が入った。とてもぬぐう暇など無い。
全て勘にたよっていた。槍を使い慣れた次郎の「勘」は鋭く、敵の足軽を
七,八人ほど斬り捨てた。

さすがに疲れた。

槍を落とした。刀を抜いた。
馬から落ちた。周りを足軽に囲まれた。

五人・・・

五人で囲まなければ自分を討ち取れないのか・・・

次郎は満足だった。

「手柄は五人で分け合うのだぞ」
腹を棒状の物が突き通した。
次郎はそれが自分の命を絶つ物だと気付いた。
鮮血が飛び散った。

設楽原には武田軍の退き鐘が空しく響き渡った。



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