戦国幻乱記1 本能寺 信玄五郎先生作

1582年6月1日夜。本能寺の変前夜。ここは京都二条御所。
「今日の茶会は実にすばらしかった。」
「まことにございます。宗久殿もびっくりしておられた。」
「あたりまえじゃ。あれだけの茶器をみれば誰だってびっくりするわい。」
「しかし、あれだけ集めてしまうとは・・・。」
「父上もさすがじゃ。」
「筑前(後の秀吉)も備中平定は目前。北陸でも魚津陥落は時間の問題と聞いておる。」
「我ら織田家に敵はありませぬ。」
「父上の天下もすぐじゃな・・・。」
ここにいるのは尾張の戦国大名、織田信長の長男、織田信忠と、その弟、織田勝長である。

6月1日昼。織田信長は京都本能寺で盛大な茶会を開いた。今井宗久らの有名茶人らが招かれた。信長はこの席で、自らが所持している莫大な量の名物茶器の中でも、最も珍しいものを披露した。自分が持っている権力を見せるのが目的であった。

その頃、織田家家臣、前田利家の長男、前田利長は京にいた。北陸戦線での戦況を伝えるためであった。今まで激戦が続いていた越中魚津城での戦いも、織田家優勢のうちに進んでおり、相手、上杉景勝が越後へ退去していた。
「魚津ももう落ちますな・・・。」
前田家重臣、奥村永福が言った。
「そうじゃな・・・。」
「利家様も戦功をお立てになられたとか。」
「そうらしいのう。わしは明日、信長様に会い、戦況一切を報告するつもりじゃ。」
「もちろんです。」
「わかった。永福、わしはもう寝る。」
皆が眠りについた頃、丹波から京へ向けて進軍している部隊があった。大将は明智光秀。
「敵は本能寺にあり!!」
闇の中を、明智軍は京を目指して行った・・・。日付は、6月2日に変わっていた。

6月2日未明。本能寺は炎に包まれた。
「くそ・・・。もはやこれまで・・・。」
織田信長は自害、49年の生涯を閉じた。
同じ頃、京都の二条御所にも明智軍が攻めてきていた。光秀の養子、秀満が総大将を務め、その数、5千。
「若様、はようお逃げください。」
「貞勝、そなたは?」
「わしもあとから参ります。」
「だめじゃ。勝てぬ。」
「なりませぬ。家臣は主君を守る義務がありまする。主君のご長男となればなおのこと、わしは使命をはたしまする。」
「兄上。」
「勝長。」
「兄上、はようお逃げを。今ならまだまにあいまする。」
「ならん。弟と家臣を置いて逃げることなどできぬ。」
「だめです。されば、兄上は織田家の断絶を望むのですか?」
「違う・・・。しかし・・・。」
「迷っている時間はありませぬ。兄上、わしがおとりに。」
勝長は乱軍の中に駆け込んでいった。そのころには、二条御所にはもう日がついていた。
「若様、早く!!」
「・・・わかった。」
信忠は裏門から城を出た。西へ走った。幸い、明智軍とは会わなかった。
「貞勝・・・、勝長・・・。」
信忠は馬上で涙をこぼした。

そのころ、明智軍は二条御所を占領した。
「信忠はおったか。」
「いまのところまだ・・・。」
「はよう探せ。」
「はっ。」
そして、午前4時ごろ、光秀の本隊と合流した。
「殿ー。」
「どうした?」
「信忠の首でござる。」
「見つけたか。よくやった。」
そして、秀満は早速、光秀に首を見せに行った。
「・・・・・」
「どうでござるか?」
「違う。」
「・・・と申しますと?」
「これは信忠の首ではない。」
「なんですと?」
「はよう探せ!!」
「はっ。」
秀満はあわてて退出した。時代は風雲急を告げていた。




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